御老人の一言

4月30日リサイタルに多くの皆さまのおいでをいただき、ありがとうございました。

終演後、いつものように会場ホワイエにておいでいただいたお客様とご挨拶をしていると、後方に一人の痩せた長身のまだお会いした事のない御老人が立っておられる。

そして私の前に立たれると本当に消え入るような声で話し始められた。聞き漏らすまいと私はぐっと彼の口元に耳を近づけると、「私のようなものが、このような事を申し上げるのは誠に僭越な事と思いますが、、」と10秒程、言葉を選んでおられると、「本日貴殿の演奏を聴きまして、わたくしの頭に浮かびました事は、、」また間をおいて、「尊厳」「人間の尊厳という言葉でした」

自分が作品に向きあとき常に「銘」とするこの言葉を物の見事に言い当てたこの御老人。「また是非お目にかかり、演奏を聴いていただけたら嬉しいです」とお答えしたものの、見上げるような長身でジャコメッティのブロンズのように痩せた、そして白粉を塗ったように白いお顔をしていたこの御老人はこの世の人だったんだろうか?

Alberto Giacometti: Homme qui marche, 1947 Bronze, 170 x 23 x 53 cm Kunsthaus Zürich A. Giacometti-Stiftung Inv. Nr. GS 30

Alberto Giacometti: Homme qui marche, 1947
Bronze, 170 x 23 x 53 cm
Kunsthaus Zürich

そういえば私が「人間の尊厳」という開眼した彫刻こそ20代の頃出会ったジャコメッティの彫刻だった。

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