モーツァルト:弦楽四重奏曲 第5番 ヘ長調 KV158

モーツァルト 弦楽四重奏曲 第5番 ヘ長調 KV158

17歳を目前にした16歳の時の作品。父と共に赴いた5カ月にわたる3回目のイタリア旅行の途中、ミラノで作曲された6曲の連作、通称「ミラノ四重奏曲」の中の一曲。

この「ミラノ四重奏曲」はとても興味深い。それは「大ハイドン」に出会う前の、まだソナタ形式や4楽章構成が入ってこない、モーツァルトの若い感性や工夫で作曲されているからである。この曲を作曲した直ぐあと、ウィーンに行ったモーツァルトはハイドンの影響を受け、それ以降ハイドン様式の弦楽四重奏曲に移行する。長いこと、このごく初期の弦楽四重奏曲たちは、私たちにとってどのように読み解けば良いのかわからない、「変な」弦楽四重奏曲だった。それは学生時代から慣れ親しんだハイドン様式では歯が立たず、理解の外にあった。今回は嬉しいことに結構中に入り込むことができた。経験を積んだおかげで、多彩な拍子感の実現、音程の多次元性の実施、正常と不規則の特定等が、そのキーワードとなる。その音楽は、あのモーツァルトの手紙から想像される彼そのものだ。

第1楽章はイレギュラーな3拍子で作られた意欲作。繊細に楽器の役割が移っていく。第2楽章は希少な珠玉の短調作品。誰か大事な人を悼んでの作曲だろうか。ドラマティックに情感に満ちて音楽は形作られていく。目まぐるしく変わる変拍子も、ダブルフラットやダブルシャープも使うことなく、ただ八分音符や16分音符を並べただけで、モーツァルトはそれ以上の表現を可能にする。最終楽章となる第3楽章はメヌエット。オペラのような舞台である。

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